【Report|レポート】ダイバーシティを表現する人、表現する人のダイバーシティ
IMMレクチャー・シリーズ「多文化社会におけるアートのチカラ」
企画統括 楊淳婷(Yang Chunting)
NPO法人音まち計画 所属
オリンピック・パラリンピック開催まであと1年というタイミングでスタートした本シリーズの第1回、第2回。二日連続、会場に熱心に足を運んだ来場者の姿もありました。ダイバーシティという言葉への関心が高まる中、近年増え続けているニューカマーの外国人や、戦前・戦後から日本に住んでいるオールドカマーの外国人を含め、多様化が進む日本社会の歴史や現状を踏まえて、「表現活動」をキーワードに考える機会となりました。
第1回 “遅れてきた移民国家”における不可視な外国人たち
ゲストに迎えたのは、ウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』編集長の望月優大さん。日本に滞在する多様な背景を持つ外国人に取材し、執筆する望月さんは、「複雑は、6:4でネガティブの言葉」、しかし、「白黒はっきりしない、グラデーションを持つ“複雑”というのが外国人に限らず、人として普通の姿ではないか」と述べました。
多様性はポジティブだとか、マイノリティはかわいそうでいい人だとか、偏った投影をしてしまう現状に危惧する望月さんが運営するウェブマガジンについて、対談者であるアーティストの岩井成昭さんはこう考えました。
「エピソードにはキレイな落としどころがあるわけではない。読めば読むほど、モヤモヤしたものがどんどん増えていく。つまり、なんでそうなんだろうという“問い”が増えていく。僕らが考え続けなければいけなくなっていく。」
見えるのに見えない存在とされている外国人について考えることを促す『ニッポン複雑紀行』と、社会現象をめぐって想像を掻き立てるアート、両者の“チカラ”の共通点が垣間見えた対談でした。
第2回 表現者としての在日朝鮮人たち
朝鮮大学校の先輩・後輩である登壇者は、社会学者のハン・トンヒョンさんと、アーティストの李晶玉さんでした。
在日朝鮮人2世のハンさんは、在日朝鮮人の在留身分や朝鮮学校の変遷について、日本の外国人政策・学校政策などと結びつけながら説明したのち、在日朝鮮人3世の李さんと対談し、彼女の創作活動についてディスカッションをしました。
ハンさんは在日朝鮮人が進学や就職に困難を感じていた自身の世代に比べて、情報社会の時代で育った李さんたちは、そのような困難が減少した一方で、ヘイトスピーチなどに触れて間接的に不遇感を感じる状況におかれているのではないかと、世代間の社会背景の差異に言及しました。
李さんは、朝鮮大学校と武蔵野美術大学の学生たちで共同企画したプロジェクト「突然、目の前がひらけて」をきっかけに、日本人学生と歴史やマジョリティ・マイノリティについて初めて語り合うことができ、在日朝鮮人としての自分について客観視することができたと述べました。その後に創作された李さんの作品には、民族教育を受けた自身の「在日朝鮮人性」はフィクションではないかと自問する要素が含まれていたりして、アイデンティティへの探索が李さんの作品をより複雑な構造を持つものへと導いたエピソードはとても興味深かったです。
ウェブマガジンを通してダイバーシティを表現する望月さんと、表現者のダイバーシティを反映する李さんの活動を今後も見守っていきたいです。