2015.12.9
【記録】大巻伸嗣「Memorial Rebirth 千住 2015 足立市場」
日程:平成27年10月11日(日) 昼の部「しゃボンおどり、色彩をまとって泳ぐ」 15:00~15:30
夜の部「半時の永遠、きらめきの流れにたゆたう」 18:00~18:30
会場:東京都中央卸売市場足立市場(東京都足立区千住橋戸町50)
出演:くるくるチャーミー[大西健太郎、富塚絵美、松岡美弥子]、桔梗みすず、千葉広樹、西本夏生、
大久保由美、水越朋、千住ちんどん、だじゃ研バンド
衣装協力:佐藤茜
屋台出店:NPO法人千住文化普及会、かどのめし屋、河原町自治会、千住いえまち、千住を守る会、
チャイヤイ、橋戸町自治会
協賛:旭染工(株)、朝日新聞(株)イワキ、阪田屋呉服店、ファッションサイクル遊遊
協力:東京電機大学ロボット・メカトロニクス学科、千寿リーグ、有限会社千富士オート、菱新運輸株式会社、
おかめひょっとこ元気連、柳原有志の桜会、千寿双葉小学校開かれた学校づくり協議会、千住緑町町会、
千住緑町商店会、千寿常東小学校おやじの会、古着回収にご協力いただいたみなさま
(夜の部シャボン玉エリアでのパフォーマンス。)
2015年10月12日、足立の魚市場がシャボン玉の海へと変貌した。
大巻伸嗣「Memorial Rebirth千住」(通称:メモリバ)は、2011年度いろは通り商店街での開催に始まり、小学校で2回、公園で1回の開催を経て、今年で5回目を迎えた。今回は、これまで音まちの多くのアーティストを魅了してきた足立市場での開催。メモリバで築いてきた縁を最大限に広げて、大規模なイベントとなった。初年度に結成された「大巻チーム」に加えて、毎年ご出演いただいている地域の踊りの先生方、昨年度誕生したシャボン玉マシンの担い手チーム「大巻電機K.K」、今年度新しく募集して集まった「衣装制作チーム」、そして屋台を出していただいた方と、当日はもちろん、準備段階からたくさんの地域の方にご協力いただいた。
(昼の部のシャボン玉エリア。無数のシャボン玉が空間を満たす。)
1分間に1万個のシャボン玉が出る白いバケツ型のマシンを70台置き、無数のシャボン玉が織りなす空間が時間の経過とともに変貌していく中で、人々の記憶を呼び起こし、またこの瞬間を新しい記憶にする、という作品である。
(ターレーに乗って登場する作家大巻伸嗣と、それを盛り上げる音楽隊)
メモリバのパフォーマンスは、昼の部と夜の部の2回、30分間である。
昼の部「しゃボンおどり、色彩をまとって泳ぐ」では、毎年恒例で「しゃボンおどり」が行われる。メモリバのマシンの周りで円を描きながら踊る、シャボン玉と盆踊りを融合させたオリジナルの踊りである。
今回は”市場にメモリバがやってきた”という演出で、市場で使われているターレーに大巻伸嗣とメモリバのマシンを乗せ、音まちのサポーター「ヤッチャイ隊」などのメンバーで集まった音楽隊「千住ちんどん、だじゃ研バンド」と一緒にパレードしながら入場した。その後、パレードがしゃボンおどりを行うエリアに到着すると、会場全体が輪になってしゃボンおどりが行われた。
(年齢層もさまざまな踊り手モデル。浴衣の上から手作りの飾り物を身につけている。)
そして、特に今年のしゃボンおどりを盛り上げたのが、衣装制作チームと踊り手モデルである。
当日、しゃボンおどりの際に着用するオリジナルの衣装や飾り物を制作したのが衣装制作チームだ。8月頃より募集を開始し、制作場所となったまちなか交流拠点のたこテラスには、大学生から子連れの主婦、ふらりと立ち寄った近所の奥様まで、幅広い年齢層の方々が集まった。中には舞台やフィギュアスケートの衣装の制作経験があるスペシャリストも。月に2〜3回たこテラスに集まり、お互いに意見を出し合いながら和気あいあいと衣装作りを楽しんだ。また、当日までには、さまざまな場所で地域の人と一緒に衣装を作る「装いづくりワークショップ」も行った。これは、アーティストユニット「くるくるチャーミー」が発案したもので、今回は特別に反物を素材に使用した。さまざまな柄の反物で作り上げた衣装により、色とりどりの風景になった。
(昼の部、C棟下のしゃボンおどりエリア。中央の踊り手モデルを取り囲むように大きな円ができた。)
手作りの衣装を身にまとって、しゃボンおどりを先導したのが、踊り手モデルである。今までは、地域の踊りの先生方が円を先導しながら踊ってくださっていた。しかし今年は会場が広く、円も大きくなることが予想されたため、衣装制作チームと同様8月頃より募集を開始した。こうして集まったのは、1歳の女の子や大学生、さらにはプロとして活躍するダンサーまで約20名。当日は、踊り手モデルがメモリバ開始前にしゃボンおどりの振り付けを来場者に教え、当日は踊り手モデルと、2012 年からご参加いただいている地域の踊りの先生方とで、しゃボンおどりの円を華やかに先導した。
一つ残念だったのは、当日朝まで降り続いた雨の影響で、当初予定していたマシンのタワー周りで「しゃボンおどり」ができなかったことだ。足立市場の奥の広い駐車場をシャボン玉エリアとし、約60台のマシンから無数のシャボン玉が出るなかで踊るはずだったが、雨はあがっても水たまりは引かず、屋根のある市場のC棟下のエリアで踊ることになった。しかし、音楽隊や踊り手モデルが色鮮やかな衣装を身につけ、ワークショップで作った衣装をまとう子どもたちは、市場の空間をにぎやかに彩った。
(昼の部、しゃボンおどり終了後のシャボン玉エリア。)
踊りが終了した後、シャボン玉エリアでもシャボン玉を出すパフォーマンスが行われ、辺り一面はシャボン玉でいっぱいになった。
(お揃いの深緑のTシャツを着て作業する大巻電機K.K。)
マシンを扱う大巻電機K.Kは、昨年度の千住旭公園(通称「太郎山公園」)での開催時に誕生したチームである。千住地域の小学校の父兄で構成されたソフトボールチーム「千寿リーグ」から有志で集まったメンバーと、北千住駅東口にある東京電機大学の学生が所属する。今年度は4月に講習会を行い、マシンの扱い方を改めて確認するところから始まり、全3回のプレ企画(小規模なメモリバ)、2週間に1度の会議を行ってきた。本番の流れを想定したプレ企画の積み重ねによって、当日は予想をはるかに超える方にマシンの組み立てなどをお手伝いいただき、初めての方にも大巻電機K.Kのメンバーが丁寧にマシンの扱い方を説明してくださったために、マシンのタワーはスムーズに組み上がった。
(市場で使用されるターレーもシャボン玉タワーの一部になっていた。)
メモリバは、千住のほかでも2008年から行われている作品である。そのメモリバを当初からみてきた大巻スタジオのスタッフや大巻研究室の学生と、千住の父兄や東京電機大学の学生が、お揃いのTシャツを着て朝から晩まで連携をとってマシンの組み立てから洗浄までを行う様子は、いままでになかった縁が作り出されている瞬間のように感じた。
(一人が旗を持つ傍らで、もう一人は空間をかき回しながら踊る。)
夜の部「半時の永遠、きらめきの流れにたゆたう」は、昼とはまったく異なる様相を呈した。辺りが暗くなってくると、どこからともなく現れる、4人のパフォーマー。風の流れを可視化させるような布の旗を持つ人、大きなシャボン玉をだす竿を持つ人、市場の空間をかき回す人、空気を留まらせるように踊る人・・・。この4人が、シャボン玉エリアに集まり始めたタイミングで、マシンから徐々にシャボン玉が出る。
(ライトアップされ、暗闇に映し出されるシャボン玉。)
背景では、コントラバスの低音が空気を振動させ、自然のように予測不能でどこか規則的なリズムを生み出すなか、ピアノが粒となってそのリズムを崩す―――マシンからこんこんと放出されるシャボン玉は、ライトに照らされてきらめきながら夜空に舞い上がった。
(ピアノとコントラバスの演奏。)
大巻伸嗣は、本番後のインタビューで「アートは誰もが分からないものだからこそ、ニュートラルな状態で参加できるものだ」と言った。今年は、地域の人やボランティアサポーター、学生、アーティストとの協働を生み出し、過去最大規模の開催を終えた。「アートはよく分からない」と言う地域の人がいつの間にかメモリバを語り、アートの専門家たちが、真剣に千住のことを考える。今までに誰も見たことのない、やったことのないものだからこそ、今までの仕組みでは完結しない。だからこそ、このメモリバは今後もさらに縁を広げながら、さまざまな形に変化しながら、続いていくだろう。今年もメモリバは、さまざまな形で人々の心に何かを残した。
撮影:松尾宇人