【記録】大友良英+チーム・アンサンブルズ「千住フライングオーケストラ」
大友良英と公募で集まったチーム・アンサンブルズが「空から音が降ってくる演奏会」を目指すプロジェクト。自然に左右されながらも、誰も見たことのない音楽空間づくりに挑み続ける。
凧を揚げると空の高さと青さに驚き、眩しさに目を細める。風の強さに身を縮め、風が止まれば凧が落ちないかとハラハラする。地上で鳴り響くチャンチキのリズム、管楽器の突き抜ける音、愉快なメロディ。大友の指揮に合わせ大勢の演奏者が奏でる音楽に体を揺らしつつ、上空を見上げると、凧から鈴の音色やノイズが降り注いでくる。
「千住フライングオーケストラ」は上空から音が降ってくる演奏会を目指し、チーム・アンサンブルズと大友良英が構想した演奏会だ。「音楽家ではない人と演奏しないバンドを組んでみたい」という大友の呼びかけで集まったチーム・アンサンブルズの多くは、音楽の“非専門家”な人々だ。彼らと大友は、企画を0から考えるために、まちを巻き込みながら一般の方も参加できるような枠組みを丁寧に話し合いながら探っていった。
そんな中、戦前の千住には凧が千住の名物になるほど凧専門店があったこと、そして今でも凧揚げ大会が行われていることを発見したメンバーがいた。昔、良い風が吹いたら河川敷に出向いて凧揚げをすることは大人の嗜みだったそうだ。その発見をきっかけに、音の出る凧で演奏会を行う「千住フライングオーケストラ」という企画が生まれた。
空から音が降ってくる夢は壮大だが、実際に凧で音を出すのは本当に難しい。日本にもセミ凧や津軽凧など、うなりを用いた音の鳴る凧は伝統的に存在するが、とてつもなく強い風が吹かなければ音は出ない。「千住フライングオーケストラ」は日本の凧の会・足立支部の協力を得て、凧揚げの練習や、音の鳴る凧の開発に試行錯誤していった。
そして“非専門家”だったチーム・アンサンブルズは次第に“専門家”になっていく。軽量のウインドチャイム、音程の変わるブザー、沢山の鈴を詰めて割る美しいくす玉……。凧に付けて揚げるこれらは、すべてチーム・アンサンブルズが考え出したものだ。軽やかに鳴る鈴の音から耳をつんざくような電子音まで、「千住フライングオーケストラ」が生まれたときには想像さえできない音の広がりが生み出されていた。
浅草での「すみだ川音楽解放区」や福島での「フェスティバルFUKUSHIMA!」、東京国立近代美術館での「one day ensembles」など、大友が出演するアートイベントに遠征する合間に、徐々に音が鳴るシステムを開発していった。“非専門家”だからこそさまざまな発想が飛び出し、次々と発展させていきながら、音と凧と空が絡み合う美しい情景をつくり出したのだ。
音の鳴る凧の演奏会はひとりではできない。風を読み、凧糸と凧を持つ相手と息を合わせ、タイミングよく手を離すと、凧はふわりと空に向かう。人が凧を見上げて感動するのは、凧に乗せた強い気持ちや振り注ぐ音と共振するからなのかもしれない。
今や空から音を出す仕掛けには、空気から音が滲むような幻惑的な雰囲気を生む音の鳴る提灯や、凧糸の振動から音を拾うものまで生まれている。「千住フライングオーケストラ」の夢は、まだ続いている。
空飛ぶオーケストラ大実験——千住フライングオーケストラお披露目会
2012年3月20日/会場=荒川河川敷 虹の広場/出演=大友良英、遠藤一郎、堀尾寛太、梅田哲也、毛利悠子、チャンチキトルネエド選抜メンバー、演奏者約70名/協力=日本の凧の会
千住フライングオーケストラ
2012年10月27日/会場=荒川河川敷 虹の広場、柳原商店街・学園通り・宿場通り・宿場町通り(まちなかパレード)/出演=大友良英、遠藤一郎、バッキバ!、チャンチキフライングホーンズ、凧揚げ隊・地上部隊のみなさま/協力=日本の凧の会、サンロード宿場通り商店街、柳原商栄会、学園通り商店街、宿場通り商店街、宿場町通り商店街/制作協力=山元史朗、松本祐一
千住フライングオーケストラ 縁日
2014年3月21日/会場:東京都中央卸売市場 足立市場/出演:大友良英、遠藤一郎、大友良英スペシャルビッグバンド ほか/協力:足立市場協会、株式会社 菱新運輸、有限会社 千富士オート