【記録】久保ガエタン「記憶の遠近法」
展示|平成28年1月23日(土)〜3月13日(日) ※土日月・祝日のみ開催
時間:10:00〜19:00
会場:たこテラス(東京都足立区千住4-20-6)
料金:無料
<プロジェクトの変遷>
平成27年6月 久保ガエタンによる千住リサーチ開始
8月8日 オープンコンペティションにおいて選出
9月〜 作品制作のためのリサーチを開始
主なリサーチ先:
9月18日 帝京科学大学
10月16日 足立区郷土博物館
11月6日 東京電力足立営業センター
12月11日 (株)東光高岳
12月14日 岐阜県那須塩原市へリサーチ
蓄音機などについて元東京藝術大学「音響技術史」担当教員にヒアリング
お化け煙突の関係者(実際に働いていた方)にヒアリング
12月19日 お化け煙突の関係者(実際に働いていた方)にヒアリング
平成28年1月23日〜 《記憶の遠近法》展示
《記憶の遠近法》
第1回目の「千住・縁レジデンス」招聘作家のひとりである久保ガエタンは、かつて千住のシンボルであった「お化け煙突」に着目した。
8月に行われたオープンコンペティションでは、すでに展示作品の概要を綿密に練り上げていた久保。当初、リサーチはあくまでも思い描いている作品を完成させるための過程にすぎないかと思われた。
久保は自身の足で千住のまちを歩きまわる。お化け煙突に焦点を当てると決めてからは、インターネットや書籍からお化け煙突の情報を入手していく。そして、そこから〈縁〉は広がっていったのだった。
帝京科学大学千住キャンパスにあるお化け煙突の一部を使ったモニュメントから、そのかけらを採取。足立区立郷土博物館では、過去のお化け煙突に関する展示、貴重な資料を拝見し、それらのデータを貸し出して貰うことができた。さらに久保は、かつて千住火力発電所で働いていた社員が、それらの資料を大量に寄贈していることに気づく。早速、久保は彼らにアポイントを取り付けるなど、リサーチの勢いはさらに加速していく。特に東京電力足立営業センターが保管していたお化け煙突の模型との出合いは大きかった。
帝京科学大学にあるお化け煙突のモニュメントから、そのかけらを採取
岐阜県那須塩原市へリサーチに赴き、実際にお化け煙突で働いていた方にヒアリングも行った
本展の中心となったのは、お化け煙突のかけらを抽出して作った陶器作品。千住緑町にある陶芸教室“Organon Ceramics Studio” の瀬川辰馬による「陶葬」(<壊れてしまった記憶の品>を砕いて粉にし釉薬(陶器の着色剤)を作り、焼結することでその物を “陶器”に生まれ変わらせる)というプロセスを経ている。作品はお化け煙突の約 1/300 の大きさで配置され、見る角度によって煙突の本数の変わる様子が、ペンライトの光を当てた影や、カメラの画面を通して実体験できる作品となった。
また久保によると、今回のリサーチを通して自身の作品制作のプロセスに大きな変化があったという。それはまさに、これまでのリサーチの様子をグラフィカルに現した青焼きの作品からも見て取ることができる。
久保はお化け煙突の図面データや滞在制作の様子を、“すごろく”とも捉えられるようなダイアグラム、レシピで構成し、青焼きとして新たに出力、作品化した。お化け煙突の元となる浅草火力発電所が戦艦から作られたこと、そしてその戦艦が久保の出生のルーツでもあるボルドーに繋がっていることを示す年表も制作されている。
さらに、実際にリサーチで出会った人々の“声”も作品化している。古民家の片隅にある部屋に設置された2台のプロジェクターから、左の壁にはお化け煙突のボイラー室で働いていた格和宏典さん、そして右の壁には電気課で働いていた姫野和映さんの幼少期から労働体験までの話を投影したのだ。この二人の映像を繋ぐ中間にあるこたつの上には東京電力上野支社から借りた模型が展示された。
お化け煙突のかけらを抽出して作った陶器作品とボルドーワイン(※)
実際の展示の様子(※)
(※)撮影=木奥惠三
人と話し、触れ合い、〈縁〉を紡ぐことで、彼の作品は、オープンコンペティションのプレゼンテーションの時から大きな広がりをみせた。構想段階で、ほぼ完成されていた作品イメージは、様々なプロセスを通して新たな形を成したのだ。そして、久保はさらなるリサーチ先を追い求め、動きだしている。相変わらずの行動力、躊躇いのない跳躍力には驚かされるばかりだ。