【記録】大友良英「千住フライングオーケストラ ファイナル」
そして、大空へ。
大友良英「千住フライングオーケストラ」、
ファーストステージに幕。
日時:平成 27 年 1 月 11 日 [日]13:00〜16:00
出演:大友良英、山元史朗、松本祐一、遠藤一郎
【第一部】「新春凧揚げ大会」13:00-14:00
会場:荒川河川敷 虹の広場 [ 足立区千住 5 丁目先]
【第二部】「みんなでタコトーク」14:15-16:00
会場:安養院 [ 足立区千住 5 丁目 17-9]
まず始めに、ハッキリと記しておくべきことがある。
「千住フライングオーケストラ」は、まだまだ続く。
2011年、“空から音が降り注ぐ演奏会”を目指し、「千住フライングオーケストラ」はその旅路を歩み始めた。
音楽家 大友良英が中心となって、公募で集まったチーム・アンサンブルズのメンバー達とともにアイデアを出し合い、“音の出る凧”や“音の出る提灯”など、さまざまな切り口で空から音を振らせるための仕組みを開発してきた。
「ファイナル」について語るその前に、まずは「千住フライングオーケストラ」の歩みを振り返っておこう。
1年目は、2012年3月20日に、「空飛ぶオーケストラ大実験――千住フライングオーケストラお披露目会( http://aaa-senju.com/2011/event#ohotomoE )」を実施した。
「千住フライングオーケストラ」にとって初めての大きな本番であり、荒川河川敷 虹の広場にて玉石混淆の“空から音を降らせるアイデア”合戦を行った。
大友良英と、ともに出演した堀尾寛太、梅田哲也、毛利悠子、チャンチキトルネエドら、若手の美術家・音楽家たちが河川敷の空に、それぞれの“空から音を降らせるアイデア”を浮かばせる。
そんな中、未来美術家 遠藤一郎の長い長い連凧の動きと、大友良英の動きが重なり、指揮となり、その場に集った参加者たちとともに“空と地上で”同時に演奏を行う。
まったく新しい演奏会の形を示し、この未曾有のプロジェクトにとって、大きな第一歩となった。
2年目は、まず初めに、2012年6月20日に「音の出る凧コンテスト」を実施。
発表された多彩な“音の出る凧”の中から、優秀作品に選ばれた“凧糸の代わりに電線を使った凧”を中心に、新しいアイデアを皆でブラッシュアップしつつ、山元史朗、松本祐一も加わり、新しい凧の開発に没頭していった。
その一方で、足立区千住地域を中心に、世界を股にかけて活動している「日本凧の会 足立支部」の協力をあおぎ、伝統的な手法を習いながら、あらゆる環境下で凧を揚げるための技術向上にも努めた。
2012年10月27日には、1年目に引き続き荒川河川敷 虹の広場にて、イベント「千住フライングオーケストラ( http://aaa-senju.com/2012/2319/ )」を実施した。
大友良英が指揮を執り、演奏団体である、バッキバ!、チャンチキフライングホーンズを引き連れ、千住のまちなかをパレードしながら河川敷に到着。
公募で集まった地上演奏部隊、凧揚げ隊も加わって“空から音を降らせる演奏会”が始まる。
21もの凧が空から音を降らせ、1年目からの成長を示した。
また、2年目からは千住を飛び出し、様々な場所への遠征を数多く行ったことも記しておく。
「すみだ川音楽解放区」や「プロジェクト FUKUSHIMA!」、「14の夕べ / 14 EVENINGS(東京都国立近代美術館)」、「六本木アートナイト」などに参加し、新たな仲間を集め、プロジェクトのノウハウが培われていった。
特に、その過程の中で凧を飛ばすことの難しい場所を訪れた時、新たな音を降らせる手法として“音の出る提灯”を生み出したことも大きな進歩の1つである。
3年目の大きな本番は、河川敷から、千住の魚河岸 足立市場へと舞台を移す。
2014年3月21日に開催された、「千住フライングオーケストラ 縁日( http://aaa-senju.com/2013/5220 )」である。
それまでの本番において、“音の出る凧”は、風の強さや天候に大きく左右された。風が弱すぎても、強すぎても、雨が降っても、雪が降っても、暑すぎても、寒すぎても、楽しい時間では無くなってしまう。しかし、野外でなければ凧を高く揚げることは出来ない。
「千住フライングオーケストラ」は技術を成熟させていくとともに、風と天候という、空にまつわるテーマへの解答を思案していった。
そうして考えだされたのが、「縁日」という場である。
良い風が吹くチャンスを多く得るため、長めに用意された一日が、のんびりと過ぎていく。
遊びに来た人々は、軒並み並んだ52のへんてこ屋台と10の飲食屋台や、大友良英スペシャルビッグバンドによる足立市場ならではの演目を楽しみつつ、ふと風が吹いた時、どこからともなく、音が降ってくる。
それまでの成功と失敗の経験を活かした、新たな「千住フライングオーケストラ」の楽しみ方を生み出し、区内外から集まった6,000人もの参加者を沸かせた一大イベントとなった。
そして4年目、数多の風に吹かれた「千住フライングオーケストラ」は満を持して、はじまりの地である荒川河川敷に帰ってきた。
2012年10月27日以来となる、2年以上、約26ヶ月、約800日ぶりとなる“ホームグラウンド”での本番である。
振り返ってみれば、この4年間の道程は、正にトライ・アンド・エラーの連続であった。
なんとか完成した“空から音を降らせる手法”を抱えて行って、荒川の河川敷で、隅田川のほとりで、福島の広場で、六本木の真ん中で、北千住の魚市場 足立市場で……、あらゆる場所で、あらゆる風に吹かれながら、空から音を降らせ続けてきた。
時には未来美術家 遠藤一郎の連凧が、時には大友良英 スペシャルビッグバンドの演奏が、その他にも大勢の人々の力が加わり、その瞬間ごとに全く異なるアンサンブルを繰り広げてきた。
こうした数え切れない経験から培った、知恵と技術の集大成を披露したのが、2015年1月11日、大友良英「千住フライングオーケストラ ファイナル」なのだ。
【第一部】「新春凧揚げ大会」13:00-14:00
当日は、これまでの「千住フライングオーケストラ」の本番史上、最高の天候だった。
ほどよく吹く風、空は雲ひとつない快晴、気温は少し暖かいくらいで、正に凧揚げ日和である。
まずは、遠藤一郎らが上空に連凧の橋をかけていく。
そして、チーム・アンサンブルズによって開発された、新旧の凧が空から音を降らせる。
▲風が通り抜けることで音が出る「笛凧」
▲風を受け、ピンと張られた弓が震えて音が出る「うなり凧」
▲凧糸にスピーカーを吊るし、電線を延ばしながら音を鳴らす「ブザー凧」
▲凧糸そのものの振動を、発泡スチロールを押し付けて増幅させる「スチロー」
更には、少し奇妙な形状の凧まで飛び出してくる。
▲回転することによって浮上する「回転凧」
▲まさかの星形「シューティングスター凧」
来場者も、連凧や小さなサイズの凧を飛ばし、凧本体に取り付けてある小さな鈴を鳴らして演奏に加わった。
また、凧のバリエーションが豊かになったことに加え、凧揚げ技術もかなり向上した。
▲初期であれば確実に絡まっていたような場面
常に変化し続ける凧とその音を、のんびりとゆるやかに体験出来る牧歌的な時間となった。
【第二部】「みんなでタコトーク」14:15-16:00
続いて、河川敷から歩いてすぐの寺院「安養院」に場所を移し、第二部「みんなでタコトーク」を開催。
大変多くの方にご来場いただき、会場は人であふれんばかり、出演者とお客様とは目と鼻の先。
室内はとても暖かくなり、お茶をすすりながら、非常にアットホームな雰囲気で話が弾んでいった。
まずは、さきほど第一部で揚げた凧についての解説から入りつつ、これまでの活動を、大友良英、遠藤一郎、チーム・アンサンブルズのメンバー達がそれぞれの視点から、時にコミカルに、時にシリアスに語っていく。
「千住フライングオーケストラ」が辿ってきた道程は本当に試行錯誤の連続で、その過程で生み出された凧にも様々な種類がある。
▲「笛凧」に取り付けている、笛となるペットボトル。吹き口の大きさや角度が重要
▲材料は全て100円均一の「ウィンドウチャイム」。音程ごとに揃えてあり、複数本でハーモニーが奏でられる
▲試行錯誤の末、「うなり」の弓に最も適した素材は、カセットテープのテープであることが判明した
▲「回転凧」は最も新しく開発された凧、ミニチュアの制作に始まり、最終的には第3号まで作られている
チーム・アンサンブルズのメンバー達が各々の好奇心から開発をスタートし、独自のテーマを持って4年間空から音を降らせ続けてきた、その軌跡はそのまま、千住フライングオーケストラの歴史であると言えるだろう。
そして、これからの千住フライングオーケストラについて、山元氏、松本氏らを中心に今後の展望や上空で鳴らしてみたい音について話し合う。
もちろん、これまでのメンバー達もまだまだ試し切れていないことを述べた。
千住フライングオーケストラがこれまで目指してきた、“空から音が降り注ぐ演奏会”。
大友良英とチーム・アンサンブルズが抱いてきた思いを、新しく中心となる山元史朗、松本祐一、遠藤一郎らがしっかりと受け継いだ、そんなトークとなった。
こうして、4年間の出会い、挑戦、驚き、おもしろさ、不思議さ……、その全てが凝縮された大友良英「千住フライングオーケストラ ファイナル」によって、ファーストステージの幕が下りた。
しかし必ず、幕はまた上がる。
“空から音が降り注ぐ演奏会”というテーマには、まだまだ未知なる可能性と大いなる魅力が秘められているからだ。
これまでずっと、“空から音を降らせる”ことを実現するためだけに、大友良英とチーム・アンサンブルズのメンバーたちは、様々な試行錯誤を繰り返した。
その結果、2つの大きな手法を確立させることが出来た。
1つは、静かで、同時に大量に揚げることもでき、足立区との関わりも深い“凧”。
もう1つは、“凧”を揚げることが難しい場所で、新しい手法として登場した“提灯”。
この2つの手法に辿り着くまでの苦労と、やっと作り上げ空に浮かべた時の喜びと、その両方を「千住フライングオーケストラ」は記憶した。だからこそ、どこかに誰も思い付かない“空から音を降らせる”手法があることを知っている。
大空のように、どこまでも果てしなく広がっている、可能性と魅力を知っている。
この晴れ渡る大空の下、心地良く吹く風の中、聞こえて来るのはどんな音だろう。
雨のように激しく打ち付ける音、雪のようにふわりと落ちてくる音、花びらのようにひらひらと舞い落ちる音……。
或いは、到底空から降ってくるはずの無い音。
そのどれも、まだ知らない、だけど、きっと聞いてみたい。
「明日は、どんな音を降らせてみようか。」
好奇心が導く空の先へ、千住フライングオーケストラの旅路は、まだまだ続いている。
撮影:松尾 宇人