【記録】千住ミュージックホール 第7回 東町会館
東京外縁ソングライン-チャーリー高橋meets北千住- 大縁会
日程:平成 27 年 2 月 21 日[土] 18:30-(開場 18:00)
会場: 東町会館[足立区千住東2-7-11]
出演:菜の花楽団[チャーリー高橋+さとうじゅんこ+岡野勇仁]
スクリーントーンズmini[久住昌之、フクムラサトシ、西村shake克哉、栗木健]
協賛:東京都中央卸売市場足立市場 株式会社早川屋
江戸時代から歌われてきたという「千住節」という民謡をご存知だろうか?その名前が表す通り、千住で生まれた民謡である。しかし、発祥の地である千住でももう知っている人は本当にごくわずかだ。その昔、川越から浅草まで下る高瀬舟を操る船頭達によって「千住節」は歌われてきた。
民謡っていうと何だか伝統芸能的なものをイメージしていないだろうか?千住節の歌詞には、当時の営みがイキイキと描かれている。例えばこんな一節。
ハァ〜 千住通いを ぇ止めようとすれど オイデオイデの文がく〜る〜
現代で言うと仕事帰りについキャバクラに通っちゃう男と営業メールを送る女、、なんていったら元も子もないのだけれど、江戸時代の男と女の人情味溢れる生活模様がよく描かれている。男と女って変わらないんだなあなんて、目を閉じて思いを馳せてしまう。でも、そんな人々の生活の中から生まれてきたこの歌は、もう誰も歌っていない。カラオケやCDショップで音楽を買うのではなく、まちや人々の営みから次々に歌が生まれ、またその土地の人々によって楽しまれてきた時代が確かにあったのだ。
この歌を千住で復活させ、もう一度歌われる土壌をみんなでつくろう!というのが、今回のライブの発端だ。
音楽家・チャーリー高橋さんと一緒に千住で民謡を歌うメンバーを公募し、オリジナルの楽曲も作りながら、その集大成として、現代版の民謡ライブ「大縁会」を開催することになった。そもそも「うた」って、私たちの暮らしにおいてどんな存在だったんだろうか?日本では、お年寄りが歌うものとか、古典的なものとして扱われることが多く、ポピュラー音楽とは隔絶した音楽として捉えられがちな民謡。でも日本以外の多くの国では、その土地にもともとあったルーツとなる音楽が、その国の若い人たちの手によって自由にアレンジされ、さまざまな形態になりながら楽しまれ、音楽のサイクルがつながっている。
(1)千住節が歌われる土壌をもう一度築き、歌を通してまちを新たに見つめ直すこと
(2)失われた民俗芸能を現代的なアレンジにして、「文化のリサイクルの輪」を自分なりに楽しむこと
(3)音楽史的にも面白い音楽をこのプロジェクトでつくる
一回性のライブではなく、時間をかけて歌の魅力に迫るプロジェクトにするべく目標を掲げ、2月のライブに先駆けて、昨年11月から月に1回、チャーリーさんとうたづくりワークショップを始めた。
公募で集まった、東京外縁ソングラインのプロジェクトメンバー達と、まずは千住のさまざまな場所を歩いて、このまちの風景や気分を集めてみることにした。そしてメンバーから集まったいくつものワードを元にオリジナルの歌が完成した。その名も「千住ぶらぶら節」。
昭和を彷彿とさせるまちの飴屋さんには手作りの飴がころころと並び、手焼きのお煎餅が香ばしい匂いを漂わせている。三代前から千住に暮らすメンバーのご先祖さんが眠るお寺を覗いてみたり。宿場街として栄えた千住には小さな路地が行く通りもある。石造りの蔵の間を抜け、都電電車で使われていたという石畳を踏み、元赤線街や緑町にある町工場にもいった。千住というと宿場町が有名だけれど、商人の街として発展してきた経緯もあり、まちの中を歩くと本当にいろんな景色に出会えるのだ。しかも、古くからある多くの小売店が今も現役で営業しているのは、すごいことだなあとしみじみ感じた。
緑町には皮、紙、靴、金属、家具等、家族経営ながらもそれぞれの技術に特化した工場がたくさんある。「町工場の専門性の高さと多様さは昆虫の世界のようだ」と友人が言っていたが、どれも本当に掛け替えのない存在感がある。「これは、カツラのヘアピン部分を作る機械」、「こっちは兜飾りの龍」、「これは兜の首回りの部分だね」、「そっちはいま大手の店舗にも卸してる」、解説を聞きながら各機械の動くところを見学させてもらい、「ほうほう」とうなるメンバー達。ミノル金属の社長さんには、起業した頃の苦労話なども聞かせてもらい、そうしてできた曲が「緑町工場の歌」。こちらも「大縁会」で披露したが、実は歌詞がなかなか降りてこず、チャーリーさんは大変苦労したとのこと。
ワークショップの話しだけでも話しはつきないが、「大縁会」についても触れたいと思う。
ワークショップの詳細はこちらをご一読いただけると嬉しい。
チャーリーさんとまち歩き!
そして、プロジェクトをより深いものにするべく、イベントに先駆けたインタビューも行った。
チャーリー高橋meets北千住インタビューその①「音まち×チャーリー高橋」
チャーリー高橋meets北千住インタビュー②「DJいぬ×チャーリー高橋」
こちらもぜひお時間のあるときに。
さて、待ちに待った「大縁会」、会場は千住東町にある自治会館の2階の大広間である。東町町会がお祭りで使う町会の提灯や江戸時代から続く千住の絵馬屋さんが描いた地口行灯を会場に並べてお客様を出迎えた。
千住で歌う千住の歌、それならライブは千住尽くしにしようと、会場には千住名物ねぎま鍋も用意した。
「袖振り合うも多生の縁」ではないけれど、ライブで出会ったみなさんが円を囲む、そんな寄り合いのような雰囲気が出せればと思ってできた演出である。うまくいくのかとライブが始まる前から胸がどきどきしはじめた。その昔、足立区の野菜を一手に集めていた千住の青物市場。市場の目利きが認めた葱にだけがその名を冠する「千寿葱」と、昔は食べられずに捨てられていたというマグロのトロの部分を使用した、ねぎとまぐろの「ねぎま鍋」が会場に彩りを添えた。
入り口のBGMはチャーリーさんが集めた世界各国の民謡。カセットDJと呼ぶのが正しいのかわからないが、チャーリーさんはカセットを本当によく聞き込んでいて、頭出しの確認なんかしないで次々に音楽をかけていくから不思議だ。
満員御礼の大入、鍋と人の熱気のなか現れたのは、久住昌之さん率いるスクリーントーンズmini!
孤独のグルメの楽曲のイメージが強い人が多いと思うが、ギター、ウクレレ、アルトサックス、リコーダー、鍵盤ハーモニカ、ドラムにシンバルなどなど、とっても多彩な楽曲で会場は一気に盛り上がる。永六輔から始まる「ABCの歌」、ウクレレに最も似合わない曲を作ろうと思ってできた「落ち武者」、全部否定形の「ピクニック(否定的)」などなど、ゲラゲラの笑い声と手拍子が鳴り止まない会場。mcもさることながらお座敷とのマッチングが最高だ。
各テーブルでは、鍋奉行がぶつかることもなくお鍋をぺろり、早くも締めのうどんに突入しているグループもライブの中盤にはちらほら。楽しい会話も生まれているようで、鍋を仕掛けたこちらはほっと一息。
さあ、満を持しての登場は、チャーリーさん率いる菜の花楽団。前半はチャーリーさんと東京外縁ソングラインメンバーがワークショップで作った歌を披露した。民謡はやっぱりコール&レスポンス。そんな基本を押さえつつ、現代社会の所作を取り入れた現代版民謡の歌もできた。題して「スマホの奴隷」。
もはや現代人にとって手放せない存在となったスマートフォン。
「健康管理も!」と菜の花楽団が声を掛けると、「スマホの奴隷!」と自戒の念も込めてスマホを大きく振り上げ、お客さんがそれに応える。
「待ち合わせ場所も!」「スマホの奴隷!」
「Siriの言いなり!」「スマホの奴隷!」
「レンタル彼氏!」「スマホの奴隷!」
そこから菜の花楽団による現代版アレンジの効いた世界各国の民謡が続きます。
自然と手拍子がはじまり、合唱ができていく。そして最後は「千住節」、配られた歌詞カードを見ながらみんなで歌った。
ついに千住の地で千住節が復活したのである。
この瞬間、この画を見るために続けてきた数ヶ月間、うねるような大合唱を聴いていると嬉しさに笑いがこみ上げてきた。企画担当の私もみんなと一緒に歌った。ワークショップ参加メンバーと昨年から練習してきてよかった。
最後には、会場となった東町町会のおじさんがすっくと立ち上がり、司会進行にこだわることなく、来場者を巻き込んで一本締めをはじめる等、2014年度の音まちイベントのラストに相応しい、まさしく大団円のライブとなった。本来であれば、ミュージックホールのイベントはライブで終わりだが、今回ばかりはこれで終わりにはできない。はじめに目標とした
(2)失われた民俗芸能を現代的なアレンジにして、「文化のリサイクルの輪」を自分なりに楽しむこと
(3)音楽史的にも面白い音楽をこのプロジェクトでつくる
達成するためである。
この日、来場者とともに歌ったライブ音源の「千住節」、それをプロジェクトの締めくくりとして、DJいぬにダンスリミックスにしてもらったのである!オリジナルの雰囲気や気分を損なうことなく、けれどもとても聴きやすいダンスリミックスになったのではないだろうか。ぜひダウンロードして聴いて欲しい。
[トラック1]ではクラブ/ポップミュージックとしてDJいぬによるアレンジを加えている。
[トラック 2・3]では公演時の録音をそのまま収録。
千住発祥の民謡「千住節」をまちの人々が奏でる、2015年バージョンをお楽しみに。
なお、これら3曲の音源はパブリック・ドメインとして誰でも利用することが可能である。あなたのお店で、イベント/行事の音楽に、お友達にデータやCDを配っていただいてもここからさらに二次創作も問題ない。 民謡リサイクルの新しい輪が広がったら嬉しい。このページを読んでくれているみなさんやまだ見ぬ若い世代の人たちが、クラブやまちなかで「千住節」を聴きながら踊りだす日も近いかもしれない。
こうした日本の音楽を自分なりにアレンジして楽しむ文化が、今後も多くの人に広まるといいなと思っている。N次創作は日本人の十八番なのだから。
それでは、まだまだ書き足りないが、みなさま本当にありがとうございました。
今後もミュージックホールの企画にご期待あれ!!
撮影:雨宮透貴
【出演者プロフィール】
菜の花楽団[チャーリー高橋+さとうじゅんこ+岡野勇仁]
ギターの名手でもあり、アジア各国の民謡をアレンジした楽曲で、観客を熱狂させるチャーリー高橋。その圧倒的な歌唱力でインドネシアのガムラン音楽から秋田民謡、タンゴまで歌うさとうじゅんこ。南米音楽からエレクトロニカまで前人未到の越境的音楽活動で注目を集めるピアニスト岡野勇仁によるハイブリッドフォークロアトリオ。民謡の他、フィリピンやインドネシアのポップス、ハワイアン、クラシックの歌曲、オリジナル曲など、シンプルな民謡をもとにした音楽は、次世代の音楽の在り方を感じさせると評価も高い。
TheScreenTones
’12年1~3月放送のTV東京系ドラマ「孤独のグルメ」の音楽制作のため、 原作者である久住昌之を中心に集まった音楽制作家集団。それぞれが異なる音楽的バックボーンをもとに 作編曲、演奏、ミキシングまでこなし、’14年7~9月放送のSeason4まで、全4シーズンに渡り音楽を 手がけた。通常5人編成の他に、小編成のTheScreenTones mini、TheScreenTones nanoなど、 編成 を変えて、様々な場所で年間数十本におよぶライブ活動も展開。そして「孤独のグルメ」サントラの曲は、全国 他局のテレビ・ラジオ番組や企業HPのBGMでも使われ、その人気はじわじわと広がりはじめている。
【リミックス制作】
DJいぬ
1967年8月4日生まれ、北海道出身。独学で作曲、管弦楽法を学ぶ。16歳で、ディスコのDJ勤務を始める。1986年、リミックスグループ「THE JG’s」に参加。TRFのDJ KOOや、dj hondaと一緒に多くのリミックスを作る。アニメ「エイトマンアフター」のサウンドトラックの作曲などのかたわら、國學院大学のために、マンドリンオーケストラのための幻想曲 大八洲などを作曲。萌え曲のマスターミックス「dameMixx」シリーズも、人気作品となっている。
http://www.starfleet.ac/~inu/