【記録】野村誠 千住だじゃれ音楽祭 「千住の1010人」
日時:平成26年10月12日(日) 12:00~[アジアン屋台・こどもワークショップコーナー]
15:00~17:00[コンサート]
会場:東京都中央卸売市場 足立市場[足立区千住橋戸町50]
出演:野村誠、アナン・ナルコン、メメット・チャイルル・スラマット、池田邦太郎、ガンサデワ、倉品淳子、コーファイ、佐久間新、TASKE、小川実加子、上遠野文音、松澤佑紗、神田外語大学タイ音楽愛好会、東京藝術大学ジャワガムランクラブTitik Suara、だじゃれ音楽研究会、 ほか
「千住の1010人」という途方もない構想のだじゃれが最初に出てきたのは、千住だじゃれ音楽祭発足当初の2011年。「だじゃれ音楽」のさまざまな展開の可能性の一つとして、ディレクターの野村誠が提案したのが、この言葉であった。そして、3年の時を経て、音まち千住の縁がさまざまなひとびととの「縁」をつくり、だじゃれ音楽の内容も成熟してきた2014年度、ついに演奏会「千住の1010人」を開催する運びとなった。
「千住の1010人」の実現に向けて、野村誠作曲『千住の1010人』の編成をもとに、さまざまな演奏者を集める必要があった。ボランティアグループ「1010人集め隊」が中心となり、地域の方や音楽団体・音楽教室などへの声がけや、多様なフックを持ったプレイベントをおこない、さまざまな楽器の演奏者を公募した。
5回の事前練習を重ね、ついに10月12日、演奏会当日がやってきた。リハーサルと並行して、さまざまな食べ物屋台や、創作楽器で遊べるコーナー、吹き矢で遊べるコーナー、電車で遊べるコーナーもオープン。会場中に張り巡らされた「だじゃれ札」にクスリとしながら、観客は足立市場の中を自由に過ごしていた。
演奏会は、インドネシアの伝統楽器・ガムランが奏でる7拍子のリズムで唐突に幕を開けた。約20年前に野村誠が作曲した、ガムランのための『踊れ!ベートーヴェン』である。それまで市場全体に散らばり、自由に過ごしていた観客は、演奏が行われている屋根の下に集まっていった。やがて、シンガーソングライターのTASKEによるエネルギッシュなソロがはじまり、観客が掛け声で参加できるパートも交えつつ、楽曲はめまぐるしく展開していった。
1曲目が終わったのもつかの間、どこからともなく楽器の音が聴こえてくる。音のありかを探してみると、遠くに巨大な人形と楽器によるパレードが見えてきた。タイの民族音楽学者・音楽家、アナン・ナルコン作曲の音楽劇、『SUPER-FISHERMAN』の幕開けである。4箇所ではじまったパレードはやがて屋根の下に集まり、タイの伝統楽器ピパットによる序奏の後、倉品淳子による朗読が始まる。愛らしくも哀しい物語に、タイ舞踊やインドネシア舞踊、そして1010人の演奏者が、さまざまな表情をつけていく。最後は、ピパットによる幻想的なエピローグで幕を閉じた。
1010人の演奏者が移動し、インドネシアの作曲家、メメット・チャイルル・スラマットが、自身の新曲『Senju2014』を指揮するために指揮台につく。指揮に合わせて打楽器群が増えていき、強烈なリズムに合わせてアジアンな旋律のメインテーマが一斉に奏でられた。拍子が変わり、藝大邦楽科の学生による箏や小鼓のソロや、音楽環境創造科の学生によるギターのソロ、野村誠の鍵盤ハーモニカソロなどをはさみつつ、民族楽器・邦楽器・西洋楽器が渾然一体となってフィナーレへと向かった。
楽曲が終わると、1010人の演奏者が、市場の奥の開けた場所に移動していく。4曲目は、パートごとに、進行の最後の確認や、ちくわを吹く練習がはじまった。やがて、「千住宣誓」をきっかけに、野村誠作曲の新作『千住の1010人』が幕を開けた。1010人の音の渦はゆるやかに、さまざまに表情を変えていく。だじゃれを交えた朗読や、音階のレ、ファ、ソ、シを演奏する「レバ刺し」、キャッチボールや縄跳びに合わせた演奏などを交えながら、即興へとなだれこむ。混沌とした音の渦から抜け出すように、「空」に凧と紙飛行機が揚がり、観客は歓声をあげ、演奏者は「ソとラ」の音階を奏でた。犬の鳴き声の後に打楽器・フルートが演奏する「ワンダフル」などを経て、熱狂的なリズムのフィナーレを迎えた。だじゃれをもとにさまざまな演奏・行為が交差する、だじゃれ音楽の集大成ともいうべきエンディングであった。
このような多様な演目を実現するために、多様なひとびとが集まり音楽を奏でたこの演奏会。「だじゃれ音楽」を媒介として、1010人の演奏者や観客全員が音の渦に飲み込まれていったこの時間は、その場にいたひとびとの記憶に残り続けるであろう。
協力:森重行敏、神田外語大学タイ音楽愛好会、特定非営利活動法人淡路島アートセンター、東京メトロ、あだち再生館、(一社)日本スポーツ吹矢協会ダーツ1010支部、ポンテポルタ千住
協賛:旭染工(株)、朝日新聞(株)イワキ
助成:国際交流基金アジアセンター
屋台出店:橋戸町自治会、河原町自治会、千住魚河岸ねぎま鍋、GSK常東、マッスルおじさんのパンケーキ屋さん、ヤッチャイ屋台、千住文化普及会、ペコペコ亭、千住いえまちプロジェクト、チャイヤイ
Special Thanks:足立真理、伊原修太郎、梅澤妃美、大橋優斗、岡田峻佑、岡本春菜、桐明紀子、胡舟ヒフミ、後藤理沙子、下見智、谷龍一、中込里美、能見ゆう子、畑中菜穂子、平沼宏之、水上篤哉(1010人集め隊)、三宅博子(『SUPER-FISHERMAN』和訳)、水内貴英(人形制作)、小日山拓也、奥野和子、杉山知孝、竹井富士樹、田邉寛、鶴巻俊治、中込里美、水上篤哉(紙ドラム制作委員会)、一般社団法人 日本だじゃれ活用協会(だじゃれ協力)、ストウミキコ(振付提供)、勝木菊江(「千住の1010人」題字)、ヤッチャイ隊
■メメット・チャイルル・スラマット|Memet Chairul Slamet
作曲家/フルート・オカリナ・スリン(インドネシアやフィリピンで使用されている竹製の笛)奏者。
インドネシア出身・在住。インドネシア国立芸術大学講師。民族楽器バンド「ガンサデワ|Gangsadewa」主宰。主な公演歴は、シドニー・オペラハウスやメルボルン・アートセンター(2010)でのパフォーマンスなどがある。2013年11月、野村誠 千住だじゃれ音楽祭 国際交流企画第1弾:インドネシア篇「メメットを藝大に歓迎だい!」に出演。
■アナン・ナルコン|Anant Narkkong
タイ民族楽器奏者(ピア・ピーパット等)/民族音楽学者。タイ出身・在住。
実験音楽グループ「コーファイ|Korphai」主宰。講師としてマヒドン大学(タイ王立大学)にて教鞭をとり、現在はシラパコーン大学(タイ国立大学) で、民族音楽学の教授を務めている。野村誠らとともに即興パフォーマンスユニット「アイ・ピクニック|I-Picnic」としても活動し、2009年には国際現代音楽祭「コントラステ・フェスティバル」(オーストリア)に招聘され、国際交流基金の助成を受け、セミナー・映像作品上映・ワークショップ・コンサート等を実施。ペルヒトルツドルフ(オーストリア)でも公演と子供を対象にしたワークショップを行った。2014年3月、野村誠 千住だじゃれ音楽祭 国際交流企画第2弾:タイ篇「タイのアナンを藝大に歓迎タイ!」に出演。