【記録】未来楽器図書館

我らが活動拠点「音う風屋」にて二度に渡って開催された体験型&発展型展示。先鋭的な美術家や音楽家の作品も、地元作家や学生の作品も全てが等しく混じり合い響きあう音空間を創出した。
これまでどんな楽器に触れてきただろうか。「音まち千住の縁」の活動拠点である「音う風屋」を会場として2度に渡って試みた「未来楽器図書館」は、ほとんどの人が触れたことのなさそうな楽器を、実際に触って演奏し、楽しめる体験型展示。一度目は2012年「音まち千住の縁」秋のメイン会期に、音楽家だけでなく美術家やプログラマーを含む5名の個性溢れる作品が、土間と小上がりに雑魚寝するように同居した。足立智美が1994年からつくり始め、各方面のミュージシャンに絶大な人気を博していた『TOMOMIN』から出るファミコンのような懐かしい音色に近くの大学生は夢中になってツマミをいじり、山本俊一による『PICnome-ETH』が生み出す複雑なプログラムのパッどの動きを近所のチビちゃんたちがお餅でできたお菓子が動いてるかのように、食い入りながら不思議そうに見続ける姿も微笑ましい。ゆるやかな秋の休日が続いた。
そんな中でも、小日山拓也による多種多様な『お風呂楽器』は日々独自の進化を遂げていった。半分に切った2リットルのペットボトルの口の部分に、リコーだーの吹く部品(先端の方)を逆さまにはめ、さらにその先のビニールチューブをつける。そのびニールチューブの長さによって音程が変わるというごく簡単な仕掛け。この「湯笛」と呼ばれる楽器は、元豆腐店のこの場所に残る大釜に張った水に勢いよくつけると「ピー」という澄んだ素直な音が鳴る。会期中、連日訪れる人と小日山が一緒になって好きな音程の湯笛をつくり、「どうぞ自宅のお風呂で試してみてください」と案内すると、またたく間に大ヒット!当初の目論みであった体験型展示の一歩先をゆく展開が思いがけずできていった。
翌年、二度目の未来楽器図書館のコンセプトは、この小日山の「お風呂楽器」の成功を受けて、会期中に何度も足を運びたくなるように日々変化していく場とし、そして訪れた人がコミットできるような仕掛けをつくりたいと考えた。さらには、もうすぐなくなってしまうこの建物全体が楽器になるようにしたい。3組4名の参加作家にはその2点をオーダーした。
毛利悠子は、小型のモーターが回転する装置をたくさん持ち込み、それに「ノックちゃん」という名前を付けて貸し出すことで「万物には気持ちのよい音が鳴るツボがあり、それを探ってみよう!」という提案をしてくれた。木本圭祐は、彼が3年以上にわたって研究してきた自作の弦楽器の機構を、50年後の千住と重ね合わせることで、自分の楽器にも未来の千住にも、新たな可能性が共鳴し合うような仕組みを、「音う風屋」の2階の6畳2間で2カ月以上をかけてつくってくれた。さらに、昨年に続いて参加している小日山拓也は盟友・江川次彦を招き入れ、どこにでもある「紙」のみを使って楽器の可能性を探ってくれた。それぞれの設置場所はすぐに決まったが、音には当然境界がない。互いの音が浸食し合うこの巨大な楽器と化した家の中で、さらに音を重ね合わせる演奏会を毎週行っていくことが千住ヤッチャイ大学の提案により決まった。
週替わりのコンダクターが独自のルールを設定し、この場所と共存する。演奏に参加する者は自分の楽器を持ち込んでも良いし、ここにある展示作品を奏でても良い。そもそも、その場にたまたま居合わせてしまった人も演奏者として参加できる出入り自由な演奏会。私は、江川が会期中日々の変化の中で出した紙くずを漁り集め、パンチ穴でつくった小さな丸をお米のように研いだり、筒状の紙をタコウインナーのように切る行為にリズムをつけることで演奏会に参加した。「未来楽器図書館」を訪れ、「未来楽器演奏会」に参加し、自宅へ帰れば、昔触れていた楽器を押し入れの奥から探し出すまでもなく、手近にあるどんなものも楽器に思えてくるだろう。
そう、「未来」は一握りのアーティストが提示してつくり出すものではなく、常に自分の中の閃きの続きにあるのだ。
山本俊一《PICnome – ETH》(2012)
EY∃《BONPUCASTRING》(2009)
足立智美《TOMOMIN》(1994-)
未来楽器図書館
2012年10月27日〜12月2日/会場=音う風屋/出演=EY∃(BOREDOMS)、足立智美、小日山拓也、八木良太、山本俊一(山本製作所/tkrworks)
2013年10月27日〜12月8日/会場=音う風屋/出演=毛利悠子、江川次彦+小日山拓也、木本圭祐
未来楽器武道館
2013年12月14日/会場=東京藝術大学 千住キャンパス/出演=Numb (Rebirth / Ekoune Sound)、佐藤公俊(Open Reel Ensemble / Sountrive)、江川次彦、小日山拓也、木本圭祐
※千住Art Path2013内関連企画