「千住・縁レジデンス」ゲスト審査員インタビュー
今回は審査にご参加頂いた、ゲスト審査員の方々のインタビューをお届けいたします。
アートの第一線でご活躍されているおふたりには、今回のオープンコンペティションはどのように映ったのでしょうか。
【第3回】ゲスト審査員
畠中 実(NTT インターコミュニケーション・センター[ICC] 主任学芸員)
Q.審査員の依頼を受けられた際、どのように思われましたか?
「どんな作品を扱うのかな?」ということでした。「サウンドアート」というような、いわゆるジャンルをはっきり決めたものとはちょっと違って、募集ジャンルが不明瞭で区切りがないくらいのほうが面白い気はしましたね。僕としては面白いものに出会えるのではないかという期待感はありました。
Q.実際、当日の審査に参加されていかがでしたか?
正直、それぞれ甲乙をつけられるのがむずかしかった、というかつけられないものでしたね。土俵が同じなら良し悪しっていうものがあるけど、土俵が同じものではない、それぞれ別々のもの。そうなった時に評価基準っていうものを定めるのがすごく難しかったというのはあります。全く5人がバラバラでしたので、結局僕は、講評みたいなことしか言えていなかったのではないでしょうか。
だけど、確かに色々突っ込んでいけば、注文も出てくる。「すごく面白い、でももっとこうしたらっていいところいくかも」というのがたくさんありました。でも、それをそこまでしないのがコンペ。そういう意味ではどの人もこうしたらいいんじゃないか、というのがとても多かったです。
Q.これから千住・縁レジデンスは、どのようなプロジェクトに成長していって欲しいなどの期待はありますか?
それぞれの人が色々な関わり方を提案していってくれれば良いと思います。つまり「過去」を描き出す、「現在」に関わる、そして「未来」に向けていく。今回は、視点が過去に向いていた人が多かったような気がしました。
今回は、アーティストの5人の方がそれぞれの関わり方を示していて、そのうちのひとつが採用されたにすぎないんですよ。ほぼ全部採用可能なアイディアだったことは確かです。こんなのダメだろうというものはなかったですよね。色々な形でプロジェクトとして実現可能だったと思いますよ。そういうもの、そしてアーティストを、まちの人と見つける場にもなっていくのではないでしょうか。
日沼禎子(女子美術大学准教授)
Q.審査員の依頼を受けられた際、どのように思われましたか?
そうですね。音まちの事業自体は、観客としてきていたのですが、今回審査員として関わるにあたり、「音まち千住の縁」にアーティスト・イン・レジデンスプログラム(AIR)があることを初めて知り得ました。このプログラムならではのAIRの特徴とは何か、楽しみに審査に参加させていただきました。
Q.実際、当日の審査に参加されていかがでしたか?
地域審査員の方々や、地域の人たちと一緒に自分たちの住んでいるところで行われていくものを、審議していくっていうスタイルがすごく新鮮でした。私自身、公共のレジデンシーなどにも関わっていたのですが、公募制の時はとくに、市民の方に審査のプロセスを公開するのか否かという議論が審査の度にありました。何度か方法を変えてプロセスを公開しましたが、市民の方々の意見を実際に取り入れることは難しかった。
でも今回は、自らのコミュニティに招くアーティストは誰が相応しいのかを住民のみなさんが一緒に考えることができるようにAIRの場が発展したということは、私の中ではとても新鮮でしたし、感動的でした。
Q.これから千住・縁レジデンスは、どのようなプロジェクトに成長していって欲しいなどの期待はありますか?
今回、共通してみえたのは、「アーティストが地域に関わろうとする意識」というもの、つまりアーティストと社会との関係性が、今までとは異なってきていると思いました。
千住・縁レジデンスは、地域の人々が、きちんと個人の目線で判断し、意見をしておられました。それによって、アーティストを自分が住んでいる地に受け入れる覚悟というものがうまれる。選んだだけで終わりではなく、自分たちが選んだアーティストなのだから、きちんと受け入れたい、だからこそ自分たちの意見を持つという相互の関係がきちんと見える審査だったと思います。
当初アーティスト・イン・レジデンスは、美術館などではない、オルタナティブという概念の端っこにあったのに、それが発展してきて、逆に今は、地域がアーティストを選ぶという能動的な動きが出てきた。その流れの中で、今回の千住・縁レジデンスのようなものが生まれてきたんだなと、とても感慨深かったです。
畠中さん、日沼さん、この度は誠にありがとうございました!
インタビュー日:2015.08.08
(撮影:松尾宇人)
次回は、千住に実際にお住いの地域審査員の方々のインタビューをお届けいたします。お楽しみに!